Research Projects
現在、以下のテーマに取り組んでいます。
全てのテーマにおいて、共同研究者を随時募集しております。
1.探究を通した科学的思考力の育成
学習者の科学的思考力や科学的推論能力(scientific reasoning skills)を育成することは、現代の科学教育の重要な目標の1つです。私は、科学的思考力の中でも特に、仮説設定能力や条件制御能力の指導と評価に関する研究を進めています。仮説設定場面では、「目の前の問題状況に対する暫定的な説明(仮説)」を構築する必要がありますが、その際、問題状況から従属変数と独立変数を見出し、因果関係について論理的に検討する必要があります。また、仮説を確かめるための実験方法を検討する場面では、操作変数以外の独立変数(統制変数)を適切に制御することが求められます。このような高度な科学的思考は初学者にとって難易度が高く、指導法の開発が課題となっています。指導法開発においては、科学的探究を通した科学的思考力の育成に取り組んでいます。
成果論文(抜粋)
中村大輝, 松浦拓也. (2018). 仮説設定における思考過程とその合理性に関する基礎的研究. 理科教育学研究, 58(3), 279-292. https://doi.org/10.11639/sjst.17005
中村大輝. (2018). 発見の文脈における評価に関する基礎的研究. 理科教育学研究, 59(2), 197-204. https://doi.org/10.11639/sjst.sp17009
中村大輝, 雲財寛, 松浦拓也. (2018). 理科の問題解決における仮説設定の研究動向. 理科教育学研究, 59(2), 183-196. https://doi.org/10.11639/sjst.18026
中村大輝, 松浦拓也. (2018). 理科における仮説設定の合理性に影響を及ぼす要因の検討. 日本教科教育学会誌, 41(3), 57-66. https://doi.org/10.18993/jcrdajp.41.3_57
中村大輝, 松浦拓也. (2019). 理科における条件制御能力に影響を及ぼす要因についての一考察. 理科教育学研究, 60(2), 385-395. https://doi.org/10.11639/sjst.sp18017
中村大輝, 佐久間直也 (2022). 複数事象の比較を通した仮説設定の段階的指導法の効果. 理科教育学研究, 63(2), 357-371. https://doi.org/10.11639/sjst.B21016
森川大地, 中村大輝. (2024). 問いの設定場面における「変数を見いだす力」の育成方法の開発. 理科教育学研究, 64(3), 329-339. https://doi.org/10.11639/sjst.23020
2.STEM/STEAM 人材の育成
科学・技術をめぐる国際競争は激しさを増しており、STEM分野(Science, Technology, Engineering, Mathematics)の人材の需要は増加傾向にあります。しかしながら、労働市場では企業の需要に見合ったSTEM人材が不足しており、STEM人材の育成は科学教育の重要な課題の1つとなっています。また、STEMキャリアの志望者数には男女で大きな開きがあり、このようなジェンダーギャップの解消も重要な課題となっています。私はこれまで、国内外のSTEM/STEAM教育のレビューや、STEMキャリア選択に関わる要因の検討などを行ってきました。今後は、STEMキャリアの志望者数を増やすための介入研究などに取り組んでいく予定です。
成果論文(抜粋)
Matsuura, T., & Nakamura, D. (2021). Trends in STEM/STEAM Education and Students’ Perceptions in Japan, Asia-Pacific Science Education, 7(1), 7-33. https://doi.org/10.1163/23641177-bja10022
中村大輝, 堀田晃毅, 西内舞, 雲財寛 (2022). 社会認知的キャリア理論に基づくSTEMキャリア選択の要因と性差の検討 ―PISA2015データの二次分析を通して―. 日本教育工学会論文誌, 46(2), 303-312. https://doi.org/10.15077/jjet.45098
中村大輝, 松浦拓也. (2024). 文系・理系の自己認識はいつ形成されるのか―4年間の縦断データを用いた検討―. 科学教育研究, 47(4), 542-548. https://doi.org/10.14935/jssej.47.542
学会発表
Nakamura, D., Unzai, H., & Matsuura, T. Examining Factors That Influence the STEM Career Choices of Secondary School Students: Using Data from TIMSS 2019. International Conference of East-Asian Association for Science Education (EASE2021), 2021.6.18., Shizuoka, Japan. https://speakerdeck.com/arumakan/examining-factors-that-influence-the-stem-career-choices-of-secondary-school-students-using-data-from-timss-2019
Nakamura, D. Analysis of Factors Affecting STEM Career Choice: A Comparison of PISA 2015 in Japan and Indonesia. The 9th International Conference on Mathematics, Science, and Education (ICMSE), 2022.10.5., Indonesia. https://speakerdeck.com/arumakan/analysis-of-factors-affecting-stem-career-choice-a-comparison-of-pisa-2015-in-japan-and-indonesia
Daiki Nakamura, Kodai Miura, Soichiro Kudo, Mikiharu Ishitobi, Shotaro Naganuma. Developing a Diverse Interests Scale for STEM Learners: Based on the ROSES Survey in Japan. International STEM Education Conference 2024, 2024.06.27, NIE, Singapore.
記事
理系成績が高い日本だからこそSTEM教育/STEAM教育を取り入れるべき。専門知識だけではもの足りない理由. KIDSNA STYLE. https://kidsna.com/magazine/article/education-educational-column-240621-36326071
3.科学の性質を教える理科授業
科学の性質(Nature of Science, NOS)とは、科学がどのように機能するのか、科学的知識はどのように生み出されるのかといった科学に関する認識論的な特徴を指します(McComas et al., 1998)。NOSの中身については、様々な下位要素が提案されていますが、例として「科学はその時点でのもっともらしい説明を構築する営みであり、将来的に変わる可能性がある暫定性を持つ」といった性質があります。NOSを理解することは、現代の科学教育の重要な目標の1つになっています。なぜなら、NOSを理解することで、科学の深い理解や、より良い意思決定などに貢献すると考えられているからです。
近年はNOS理解の重要性が認められるようになり、多くの国のカリキュラムに含まれるようになってきています。また、PISA調査のような国際調査でも、その理解度が調べられるようになってきています。その結果、日本は国際平均と比べてNOSの理解度が低いことが明らかになっています。このような状況の改善に向けて、NOSの指導と評価に関する研究を進めています。
成果論文
中村大輝, 藤原聖輝, 石飛幹晴, 川崎弘作, 小林和雄, 小林優子, 三浦広大, 雲財寛 (2023). 科学の本質の理解の評価方法とその特徴に関するシステマティックレビュー. 科学教育研究, 47(2), 137-154. https://doi.org/10.14935/jssej.47.137
学会発表
中村大輝, 藤原聖輝, 川崎弘作, 小林和雄, 小林優子, 三浦広大, 雲財寛. 科学の本質の理解の評価方法とその特徴に関するレビュー. 日本科学教育学会 第45回年会, 口頭発表, 2021年8月22日, 鹿児島大学(オンライン開催). https://doi.org/10.14935/jssep.45.0_425
中村大輝, 池恩燮, 小林優子. NOSの理解度を評価する多肢選択式問題の開発:項目反応理論に基づく項目特性の検討. 日本理科教育学会 第73回 全国大会(高知大会), 口頭発表, 2023年9月23日, 高知大学.
Blog記事
科学の性質を教える理科授業 https://note.com/rikaedu/n/na0c552110d81
4.生成AIを活用した理科教育
学習者が生成AIに触れる機会が拡大しつつある現在、教育における適切な活用法を検討することは喫緊の課題です。生成AIが人間の仕事を奪うのではないかといった脅威論がある一方で、私たちの生活を豊かにしてくれるという期待もあります。教育においては、学校の業務改善のみならず、授業の質の向上に貢献する可能性があります。生成AIをどのように活用することが理科という教科の目標の達成につながるかを現場の先生方と連携しながら研究しています。
成果発表
2024.02.17 小学校から使える理科教材ワークショップ(IX)-第27回物理教育研究会-「理科教育における生成AIの活用」@広島大学 講師
書籍
中村大輝 (編著) (2024). 『生成AIで進化する理科教育-導入から実践までの完全ガイド-』東洋館出版. https://www.toyokan.co.jp/products/5610
メディア報道
テレビ宮崎 https://drive.google.com/file/d/1tPpnCMXqGg_UOaFQS0vZc55060M21nlp/view?usp=sharing
宮崎日日新聞(2024年7月6日)「授業にAI どう活用 宮大が県内理科教員研修 宮大付属中」 https://www.the-miyanichi.co.jp/?itemid=78663
リートンテクノロジー「リートンテクノロジーズジャパン、中学校授業にAIキャラクターを提供」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000043.000119361.html
ICT教育ニュース「リートンの「AIキャラクター」、宮崎大附属中学が理科の授業で活用」 https://ict-enews.net/2024/07/19wrtn-2/
インプレス「宮崎大学教育学部附属中学校、リートンのAIキャラクターを授業に採用」 https://edu.watch.impress.co.jp/docs/news/1609566.html
ITmedia「AIは“学ぶ友”になれるのか? 学校でのAI活用、先生を育てる教育学部の先生に聞いてみた」 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2407/18/news150.html
MacFan「iPadとAIキャラクターで授業を深化! 教育現場における生成AIの可能性」 https://macfan.book.mynavi.jp/article/11979/
朝日新聞EduA(エデュア)「AIキャラクターは答えを教えず「ヒント」のみ 宮崎大学教育学部附属中学校の理科授業レポート」https://www.asahi.com/edua/article/15371544
5.現代的な教育測定法の開発
ある教育介入が効果的であったかどうかを検証する際には、客観的な方法で教育効果を測定する必要があります。その際に用いられる測定方法は、妥当性や信頼性の確かめられた統計的に優れた性質を持つものであることが望ましいです。近年では、大規模な教育調査が世界中で実施されており、質の高い教育測定法の開発が求められています。私はこれまで、現代的なテスト理論である項目反応理論(Item Response Theory, IRT)に基づき、様々な教育測定法の開発に取り組んできました。
今後は、学校に配備されたタブレット端末上で実施できるテスト(CBT)を開発し、教師と学習者が学習状況を効率的に把握し、個別最適化された学びを実現できるよう、研究を重ねていきたいと考えております。その際、多母集団IRTモデル、認知診断モデル(Cognitive Diagnostic Model, CDM)、機械学習、深層学習といったより発展的なモデルの導入を検討しております。
プロジェクトHP
理科における認知欲求尺度の構成 https://doi.org/10.17605/OSF.IO/VU352
成果論文
雲財寛, 中村大輝. (2018). 理科における認知欲求尺度の開発. 科学教育研究, 42(4), 301-313. https://doi.org/10.14935/jssej.42.301
中村大輝, 雲財寛, 松浦拓也. (2021). 理科における認知欲求尺度の再構成および項目反応理論に基づく検討. 科学教育研究, 45(2), 215-233. https://doi.org/10.14935/jssej.45.215
森川大地, 石飛幹晴, 中村大輝 (2022). 問題事象から変数を見いだす力の評価方法の開発. 理科教育学研究, 63(1), 61-69. https://doi.org/10.11639/sjst.B21017
学会発表
学会発表
中村大輝. 科学教育における機械学習を用いた評価方法の現状と課題. 日本科学教育学会2022年度第4回研究会(若手活性化委員会開催), 口頭発表, 2022年12月18日, 明治学院大学. https://doi.org/10.14935/jsser.37.4_165
中村大輝. CBTの技術的な発展と大規模学力調査における応用の動向― PISA調査を例として ―. 日本理科教育学会 第73回 全国大会(高知大会), 口頭発表, 2023年9月23日, 高知大学.
中村大輝. 適切な回帰推定量の使用が学力調査の推定精度を向上させる効果の検討. 日本科学教育学会2023年度第2回研究会(若手活性化委員会開催), 口頭発表, 2023年12月9日, 九州大学. https://doi.org/10.14935/jsser.38.2_223
開発したアプリケーション
理科における認知欲求尺度の推定アプリケーション https://daiki-nakamura.shinyapps.io/IRT_GRM_NFCSE/
6.教育効果に関するメタ分析
教育分野の研究はサンプルサイズの制約から、1つの研究だけでは一般化可能な強いエビデンスを生み出しにくいという課題を抱えています。そこで、メタ分析(meta-analysis)という手法を用いて、特定のテーマに関する先行研究を量的に統合することで、より強固なエビデンスを生み出す方法が提案されています。私たちはこれまでに、理数教育におけるテクノロジー活用の効果、理科教育における様々な指導法の効果に関するメタ分析を実施してきました。メタ分析の結果は、これまでの研究を総括するだけでなく、これからの研究や教育政策を検討する上で有用だと考えられます。
プロジェクトHP
理科指導の効果量収集プロジェクト https://doi.org/10.17605/OSF.IO/625JE
成果論文
中村大輝, 山根悠平, 西内舞, 雲財寛. (2019). 理数科教育におけるテクノロジー活用の効果―メタ分析を通した研究成果の統合―. 科学教育研究, 43(2), 82-91. https://doi.org/10.14935/jssej.43.82
雲財寛, 山根悠平, 西内舞, 中村大輝. (2019). 理科教育における批判的思考力の育成を目的とした授業実践の効果―国内誌を対象にしたメタ分析の結果を中心として―. 科学教育研究, 43(4), 353-361. https://doi.org/10.14935/jssej.43.353
中村大輝, 田村智哉, 小林誠, 永田さくら, 大森一磨, 大野俊一, 大森一磨, 堀田晃毅, 松浦拓也. (2020). 理科における授業実践の効果に関するメタ分析―教育センターの実践報告を対象として―. 科学教育研究, 44(4), 215-233. https://doi.org/10.14935/jssej.44.215
7.研究の再現性とオープンサイエンス
近年、教育学を含む多くの学問分野において過去の研究結果が再現されないという再現性の危機が問題になっています。このような再現性の危機の原因として指摘されているのが、問題のある研究実践(QRPs)の存在です。QRPsを防止するには、個々の研究者の努力に加えて、学術制度を改革しオープンサイエンスを推進していく必要があります。研究の透明性を高め、質を向上させるための取り組みについて他分野の研究者と連携しながら検討を進めています。
成果論文
中村大輝, 原田勇希, 久坂哲也, 雲財寛, 松浦拓也. (2021). 理科教育学における再現性の危機とその原因. 理科教育学研究, 62(1), 3-22. https://doi.org/10.11639/sjst.sp20016
平石界, 中村大輝. (2022). 心理学における再現性危機の 10 年 ―危機は克服されたのか、克服され得るのか―. 科学哲学, 54(2), 27-50. https://doi.org/10.4216/jpssj.54.2_27
Hiraishi, K., Miura, A., Higuchi, M., Fujishima, Y., Nakamura, D., & Suyama, S. (2024). A systematic review of conference papers presented at two large Japanese psychology conferences in 2013 and 2018: did Japanese social psychologists selectively report p < 0.05 results without peer review? PeerJ 12:e16763 https://doi.org/10.7717/peerj.16763
学会発表
中村大輝, 雲財寛. 教科教育実践とオープンサイエンス. ジャパン・オープンサイエンス・サミット2021, 口頭発表, 2021年6月14日, オンライン開催.